- 概要
(1) 核軍縮・不拡散及び日本海の環境保全の観点から日露非核化協力委員会がロシア極東地域にある退役原子力潜水艦の解体に協力する事業です。
(2) 同協力は、2003年の「日露行動計画」の重要な柱であると同時に、2002年のカナナスキス・サミットで採択された「G8グローバル・パートナーシップ(G8GP)」の最重要課題の一つとして位置づけられました。
(3) 本事業で以下の6隻の退役原潜が解体されました(解体開始順)。これらの退役原潜の解体費には日本国政府が拠出した資金約49.2億円並びにG8GPに参加するオーストラリア、韓国及びニュージーランドからの協力資金約8.8億円、総額約58億円が充てられました。
(イ)ヴィクターⅢ級原潜(艦体番号304)
(ロ)ヴィクターⅠ級原潜(艦体番号614)
(ハ)チャーリーⅠ級原潜(艦体番号714)
(ニ)ヴィクターⅢ級原潜(艦体番号333)
(ホ)ヴィクターⅢ級原潜(艦体番号271)
(ヘ)ヴィクターⅢ級原潜(艦体番号308)
(4) 協力は2003年6月から2009年12月まで行われ、本事業は成功裡に完了しました。
【参考】
- 経緯
(1) 冷戦終結後、ロシアでは多くの原子力潜水艦が退役しました。これらの退役原潜は、解体のためにロシア北西部及び極東地域に係留されていましたが、ソ連邦瓦解に伴う社会的・経済的混乱の影響から解体が滞っていました。
(2) 退役原潜は、使用済核燃料を搭載したまま海上に係留されていたため、使用済核燃料等の核物質が不法に持ち出され、テロリストなどの手に渡る恐れがあり、また艦体の腐食による放射能汚染も危惧されていました。
(3) このような事情から、退役原潜の安全かつ迅速な解体は核軍縮・不拡散及び環境保護の観点からロシアだけでなく、日本を始めロシアに隣接する各国や国際社会にとっても重要な課題でした。
(4) 1999年5月、日本政府は「軍縮と環境保護のための日露共同作業(日本政府による対ロシア非核化支援、軍縮・不拡散分野の新たなイニシアティブ)」を発表し、同イニシアティブの一環として、
軍備管理・軍縮及び環日本海の環境保全の観点から重要かつ緊急の課題であるとの認識の下に、極東における退役原子力潜水艦解体支援を決定しました。
(5) また2002年6月に開催されたカナナスキス・サミットにおいてはG8GPが採択され、ロシアにおける退役原潜の解体が同パートナーシップの最重要課題の一つとして位置付けられました。
(6) 2003年1月の小泉総理(当時)訪露の際に日露両国首脳により「日露行動計画」が合意され、ロシア極東地域における退役原潜解体事業は同行動計画の下での1つの重要な柱と位置づけられ、「希望の星」と命名されました。
【参考】
- 軍縮と環境保護のために日露共同作業(外務省)
- 「日露行動計画」(外務省)
- 解体場所
ズヴェズダ造船所 (ロシア、沿海地方、ボリショイ・カーメニ市)
北東地域修理センター (ロシア、カムチャッカ地方、ヴィリュチンスク市)
- ロシア側関係機関
ロスアトム、ダリラオ社、ズヴェズダ造船所、北東地域修理センター
- 事業の実施
「希望の星」事業の実施概要は以下のとおりです。
なお原潜の解体作業においては、ロシアが自国の資金で艦体の曳航及び使用済核燃料抜取り・搬出を行い、日露非核化協力委員会が艦体の3分割、艦首・艦尾部分の機材の撤去と断片化、原子炉区画の移送等に対し資金協力を行いました。また、これらの解体作業によって生じる液体放射性廃棄物は、2001年に日露非核化協力委員会が日本の資金をもって供与した低レベル液体放射性廃棄物処理施設「すずらん」によって処理されました。
(1) ヴィクターⅢ級原潜(艦体番号304)解体プロジェクト
2003年6月、川口外務大臣(当時)のウラジオストク訪問の際、「希望の星」事業のパイロット・プロジェクトとして「ヴィクターⅢ級原潜解体プロジェクト」の実施取決めに署名し、同原潜が解体されました。
実施取決め締結 | 2003年6月 |
資金供与契約締結 | 2003年12月 |
プロジェクト完了 | 2004年12月 |
解体作業実施機関 | ズヴェズダ造船所 |
支払資金額 | 約7.94億円 |
資金拠出国 | 日本 |
ヴィクターⅢ級原潜解体パイロット・プロジェクト |
(2) 新たな5隻の原潜解体
2005年11月、プーチン露大統領(当時)の訪日時に、日露非核化協力委員会はロシア連邦原子力局(当時)との間で新たに5隻の退役原潜の解体に合意し、同協力に係る実施取決めを締結しました。同取決めに基づき、次のとおりヴィクターⅠ級原潜1隻、チャーリーⅠ級原潜1隻及びヴィクターⅢ級原潜3隻が各々解体されました。
(イ) ヴィクターⅠ級原潜(艦体番号614)解体プロジェクト
実施取決め締結 | 2005年11月 |
資金供与契約締結 | 2006年9月 |
プロジェクト完了 | 2008年11月 |
解体作業実施機関 | ズヴェズダ造船所 |
支払資金額 | 約8.70億円 |
資金拠出国 | 日本、オーストラリア、韓国 |
(ロ) チャーリーⅠ級原潜(艦体番号714)解体プロジェクト
実施取決め締結 | 2005年11月 |
資金供与契約締結 | 2008年1月 |
プロジェクト完了 | 2009年4月 |
解体作業実施機関 | 北東地域修理センター(NERC) |
支払資金額 | 約9.44億円 |
資金拠出国 | 日本 |
(ハ) ヴィクターⅢ級原潜3隻(艦体番号271、308、333)解体プロジェクト
実施取決め締結 | 2005年11月 |
資金供与契約締結 | 2007年8月 |
プロジェクト完了 | 2009年12月 |
解体作業実施機関 | ズヴェズダ造船所 |
支払資金額 | 約31.93億円 |
資金拠出国 | 日本、韓国、ニュージーランド |
【参考】
- 「希望の星」への日本以外の各国の協力(拠出順)
拠 出 国 | 拠 出 年 月 | 拠 出 額 |
オーストラリア | 2004年6月 | 約7.42億円 |
韓国 | 2006年12月 | 約2950万円 |
韓国 | 2007年12月 | 約2830万円 |
ニュージーランド | 2008年7月 | 約5510万円 |
韓国 | 2008年12月 | 約2200万円 |
- 「希望の星」完了行事
2010年3月20日、ズヴェズダ造船所においてロシア退役原潜解体協力事業「希望の星」の完了式典が開催されました。本式典には日本側から西村外務大臣政務官(当時)ほかが、またロシア側からはルイセンコ・ダリラオ社長、ラソマヒン・ズヴェズダ造船所長(当時)ほかが出席しました。同式典においては、ズヴェズダ造船所構内に本事業の完了を記念して建立された石碑の除幕が行われ、ロシア側から日本の協力に対する感謝の意が述べられました。なお、本式典の模様は日露両国にて広く報道されました。
完了式典の様子 |