原子炉区画陸上保管施設建設協力事業

<原子炉区画>

原潜解体の過程では、艦首及び艦尾はスクラップまたは非放射性廃棄物として処理されます。しかし、艦体中央部の原子炉を含む区画(「原子炉区画」)については使用済み燃料を抜き取った後も原子炉の残留放射能が高く、ただちに解体することが困難なため、長期保管(約70年間)による放射線量の減衰を待ってからの処理が必要となります。

なお、原子炉区画の大きさは原潜の型により異なりますが、日本が主として解体に協力したヴィクター級原潜の場合は、直径約10m、長さ約10m、重さ約900tです。

RCU 海上保管中の3区画unit
原子炉区画 海上保管中の3区画ユニット

<海上保管から陸上保管へ>

従来、原潜の原子炉区画は、浮力をつけるために残した前後の区画とともに水密処理等を施して「3原子炉区画ユニット」(原子炉区画単体の約3倍の長さと1.5~2倍の重量があります)の形で海上に保管されてきました。

しかし、海上保管が長期に及ぶと、海水による金属腐食や海象の影響による事故等が懸念されます。このためロシア政府は2000年頃から原子炉区画の安全かつ安定した保管を目指して、ロシア北西部と極東地域において原子炉区画の陸上保管施設建設の検討を開始しました。

ロシア北西地域の核遺産問題については、西欧諸国の関心が極めて高く、サイダ湾の陸上保管施設はドイツの支援によって2003年から建設が進められ、2006年に稼働を開始しました。一方、ロシア極東のラズボイニク湾においてはこの問題への取り組みが遅れ、施設建設は滞っていました。

Saida Bay Razboynik Bay
2006年サイダ湾で稼働を開始した施設(左)と同時期のラズボイニク湾の施設建設現場(右)

<日本の協力>

原子炉区画陸上保管施設においては、まずこれまで海上保管されてきた3原子炉区画ユニットを安全に陸揚げし、その上で長期保管に向けて前後の区画を切り離し、原子炉区画のみに加工する作業を慎重に行うことが求められます。日本政府は、ラズボイニク湾に建設中の陸上保管施設の重要性を踏まえて、2007年1月、施設運用の要となる浮きドック、タグボート及びジブクレーンの3機材の供与を決定しました。

その後、機材の基本設計を経て、2009年5月のプーチン首相(当時)訪日の際に国営公社「ロスアトム」との間で実施取決めが署名され、事業が開始されました。

3機材供与にあたっては、東日本大震災による調達スケジュールへの影響も一時は懸念されましたが、2012年5月までに陸上保管施設を管理する国営単一企業「ロスラオ社」への3機材の引渡しを全て完了しました(事業費約45億円)。 (参考)供与された3機材の要目

CIMG1587 完了式典(3機材) 完了式典(3機材、クレーン)
機材供与完了式典(2012年5月)

<原子炉区画の陸揚げ>

2012年9月24日、ロスラオ社は供与された浮きドックを使用して最初の3原子炉区画ユニットの陸揚げを行い、作業は無事終了しました。日本の協力は、2012年10月のCEG専門家会合(CEG についてはこちらを参照)において、極東ロシアの核遺産問題の解決に向けた重要なマイルストーンの達成であるとして高い評価を受けました。

その後、作業の習熟度を高めつつロシア極東の海上に保管されている原子炉区画の陸揚げを着実に進めており、2020年末までに約70基の原子炉区画を陸揚げしました。

浮きドック原子炉区画引き入れ 原子炉区画陸揚げ 原子炉区画とクレーン
原子炉区画の陸揚げ作業

<ブラスト・塗装施設建設への協力>

日本政府はロシア政府からの要請を受け、原子炉区画陸上保管施設に対する追加支援として、原子炉区画の長期保管に不可欠な下地処理と特殊防錆塗装を行うブラスト・塗装施設建設に対する協力を実施しました(総額7.26億円)。

完成したブラスト・塗装施設 完成式典(ブラスト・塗装施設)
ブラスト・塗装施設 完成式典

同施設は2014年4月に完成しました。同年8月には稼働を開始し、最初の原子炉区画が塗装されて保管スペースに定置されました。その後も作業は着実に進められ、2020年までに約66基の原子炉区画に対して作業が実施されました。
塗装処理を施した原子炉区画は、10年毎に再塗装され、放射能が減衰するまで約70年にわたって保管される予定です。

塗装前の原子炉区画 塗装後の原子炉区画
塗装前の原子炉区画 塗装処理後の原子炉区画